門倉和夜は『大切なものを失う痛み』をよく知る少年だった。
だからこそ、なんてことない平穏な日常を送れることに人一倍感謝していた。
帰る家があること、普通の学園生活を送れること――昨日会った人と今日も会えること。
そんな当たり前のひとつひとつに。

胸の奥に残り続ける後悔から、目を逸らしたまま。

そうして迎えた新学期。
なにも変わらない学園生活が待っていると思っていた和夜は、図書室で一冊の部誌を手に取る。
―――文芸部部誌10月号『花筏』

思えばそれが、ささやかなはじまりだった。